撮影が夜間に及ぶ場合は、これらを抑える事は当然撮影隊の義務となります。
ある夜の住宅街での事。
多くの住民が既に帰宅し始めているアパートの2階でロケ中の撮影隊は、事もあろうにベランダ際の窓を開けて大声でこう叫んでいました。
「はい回った! よ〜い、スタート!!」
この掛け声は、カメラのVTRが回った際に、主に助監督等の演出部が言う言葉です。
このような声を出す事は、芝居をする役者その他のスタッフが、撮影に対してより一層の緊張感を持って望む心の準備として絶対に必要なもので、それが大きければ大きい程、“良し”とされる、いわば〔大声=業界の伝統〕な訳なんですね。
そしてこの日もその言葉を中心に、色々な会話が外で待機中の我々の耳にも聞こえて来たのです。
「テスト!」
「本番!」
「かぁっとぉぉー!」
これらはまさにロケ隊大声の三種の神器。 常に気を張って仕事をしているというロケ隊の意気込みなのです。
そんなベランダで大声を出す助監督から、こんな事を言われました。
「次本番だから、隣りの家の前でエンジン掛けたままになっている車を静かにさせてね。」
なるほど、ベランダの窓が開いているから、外の音がよく聞こえる訳だ。
早速制作部が対応します。 エンジン音は直ぐに収まり、運転していた隣りの家の主人(息子?)も、その場は穏やかに応対し、何事も無かったかのように思えました。
しかし数分後、この隣りのご主人(息子?)は急に腹が立ったのでしょう。 おもむろに家を出て来て、丁寧な口調でこう言い始めたのです。
「撮影するならするで前もってこちらにも連絡するのが筋じゃないですか? そもそもそちらが勝手にここで撮影をしていて大声を出して、しかもこの辺に止まっている車両とかも皆そうですよね? なのにずっと前からここに住んでいる僕等が、ちょっと車入れ替える為に止めてただけなのに、なんで「うるさい」とか言われなきゃならないんですか。 そりゃ改造車なら別ですよ。 でもこのマフラーだってノーマルですし車検だって通りますから。 特にうるさい訳じゃないんですよ。 しかも自分の家の横に止めてですよ。 あなたたちみたいな余所者にうるさいとか言われる筋合いはないと思うんですけど。 こっちは疲れて帰って来て、家の前で勝手にこんな事されてて… うるさいのはそっちの方じゃないですか。」
いやごもっとも…
多少の脚色はあるかもしれませんが(笑)、大体こんな事を制作部は言われておりました。
確かに夜の住宅街で、窓を開けて大声を出し、しかもその界隈には数十台の路上駐車車両。 これは十分に苦情を言う権利が発生します。 なのに、この隣りの家の主人(息子?)は、自分の家の前で、車を入れ替える為に止めていただけなのに、「うるさいので…」(少し違う言い方かも知れませんが)とまで言われてしまったのです。
そりゃ誰だって、怒りますわな。 当然の主張だと思います。
それよりも、夜の住宅街でロケをするスタッフへ一言。
お静かに!
いえ…
静かにしろ!!





